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行 動 記 録
■ 8月1日(月) 晴れ

今回は爺が岳から針の木岳コ−スを計画し、子供たちにしっかり留守をするように頼み、家を20時30分に出発する。臨時急行 "くろよん" の指定券をとっていたが、乗り込んだ車両が賑やかな団体客と同じ車両となり、非常に騒がしい旅のスタ−トとなる。このままでは安眠できそうにないため、他の車両の偵察に出向き、すぐ後ろの車両が半数程度空席だったので早速移動、幸い京都以降も空席のままだったので足を伸ばして身体を横に寝かせての仮眠の体制に入る。  

■ 8月2日(火) 晴れ

JR信濃大町に5時25分着、朝食用の駅弁を買い相乗り客3人とタクシ−で扇沢へ向かう。3人は扇沢バスタ−ミナルまで入るとのことで我々はその少し手前の扇沢出合いで下車、河原で駅弁朝食とする。 立山アルペンル−トの起点・終点となる扇沢バスタ−ミナルは、山屋より観光客でごったかえす所であるが、ここ扇沢出合いから登る柏原新道登山ル−トは、まだ一般ル−トとしては馴染みも浅く、登山者も少ない。その分静かな山登りが楽しめるコ−スとなっている。  今までは花の名前もなかなか判らず、余り興味もなかったが、最近は山野草を含め花に魅力を持ちはじめてからは、写真に撮ったり名前を意識的に覚えていくと、ただ登るだけの山行きから周囲を観察できる山行きへと変化してきた。今後の山との付き合いにも一歩踏み込んだ興味が沸いてくることになりそうだ。その意味からも今回はひとつひとつ花の名前を確認しながら、ゆっくりのんびり登ってゆこう。  ちょっと興味をもって登ってゆくと、今までは何の気なしに見逃していた高山植物の花が、こんなにたくさんの種類と、それぞれ特徴を持った花を咲かせることに感心させられる。 赤い実をぶら下げたミヤマシキミ、ゆりに似た葉に小さな花をつけたヒメタケシマラン、クリ−ム色のユリシオガマ、白い花びら7枚を存分に広げ清楚に咲くツマトリソウ、スズランのような花に赤い額をくっつけて咲いているアカモノ(別名イワハゼ)、丸い葉っぱの周辺に規則正しく鋸歯の切れ目を付けた形に特徴があるクロクモソウなど、高度をあげるに従い高山植物の数も増えてくる。  爺が岳南尾根の西面に付けられたこの柏原新道も標高2200mあたりまでは、かなり急な傾斜の登りの連続であったが、やがて等高線づたいに爺が岳の山腹を巻くように進み、森林限界に近づくにつれて視界も良くなる。はるか前方上方の稜線に立つ赤いトンガリ屋根の山小屋らしき建物も確認できるようになったが、目指す種池小屋かどうかははっきりしない。  また新しい花が多く咲いている所にやってきた。少し紫がかった白い花を二つずつ几帳面に並べて咲かすオオヒョウタンボク、勢いよく火花を散らしている線香花火のような白い花はミヤマカラマツ、もみじの花に似たモミジカラマツ、オオバキスミレなどがあるところでは群れをつくり、あるところでは混ざり合いながら咲く光景からは、冬場のきびしい気象条件を乗り越えてきたたくましい生命力を想像するのは困難なようだ。  10時10分、雪渓がまだ残っている谷筋をトラバ−ス、ここまで来れば種池の小屋もすぐ近くに見えはじめ、この後縦走する岩小屋沢岳・鳴沢岳・赤沢岳・針の木岳の稜線が正面に見渡せる高さにまで登っていた。今までの山行きでは、山の景色を眺めながら進むことが多かったため、次第に変わってゆく山の様子も手に取るように眺めていたが、今回のように花を対象に歩いていると中々目線が上に上がらずつい周囲の情景を見過ごしてしまいそうだ。まあこの辺りの山の様子は、今までの山行きでおおよそ判っているし景色は二の次とするか。  高山の花には珍しく葉っぱの大きなキヌガサソウが、白い花を自慢げに咲かせているところを見ると「お前は目立ちがりやなのか?」と聞きたくなるが、じっくり観察すればなかなか気品のある形をした花である。  最後の急な道を登ると、すぐそこに種池山荘の赤い屋根が現れた。この辺り一帯は高山植物のお花畑となっており、特にコバイケイソウの群落は見事である。  10時40分、種池山荘着。泊まりの申込みを済ませ、部屋で持参してきた昼食をとった後、荷物を置きカメラと水筒を持って爺が岳往復に出掛ける。明日は反対方向に向かうことになるため、今日にうちに爺を目指し、のんびりとした散策となる。眼下の黒部湖を挟んで見えるはずの剣や立山連峰も厚い雲海の中に隠れ、所々でやっと上部を覗かせている程度。しかしこちらの稜線は幸い視界もよく、縦走路脇に次々と新しい高山植物が現れ目を楽しませてくれる。小さな丸い葉に産毛があるようなウラシマツツジ、ふわふわと綿毛を風になびかせているチングルマの穂、岩の隙間から覗くように同じ方向を向い て咲いている紫のチシマギキョウ他イワツメグサ、クロユリ、ミヤマコゴメグサなどが相手をしてくれる。爺が岳は南峰と北峰の二つのピ−クを持っておりその中間点辺りから引き返す。  夜半から風が強くなり天候悪化の兆候かと心配したが、やがておさまり眠りに着く。  

■ 8月3日(水) 晴れ

4時30分起床、ガスが濃く視界は良くない。5時45分に小屋を出発、歩きはじめて10分ほどしたところで、雷鳥親子の出迎えを受ける。ほんの1mくらい先をヨチヨチ歩く子供を、せかすでもなく必要以上にかばうでもなく、親鳥がついてゆく姿を見ていると、厳しい冬を控えて巣立ってゆく雛への信念に満ち溢れた愛情から来た行動なのだろうとそっと見守ってしばらくついてゆく。  7時5分、岩小屋沢岳を通過し、さらに先へと進むがガスは切れそうになく、新越コルの小屋を通過するころには、一段と濃くなってくる。しかし足元のクロユリや、チングルマの穂、ハクサンチドリなどの花たちには、かんかん照りの天気よりこの方がお気に入りの様子で、朝露を花びら一杯に揺るがせながら、それぞれが誇らしげに咲いている。  今日の道のりは針の木岳までの稜線の縦走路をあまり落差もなく、進めるものと思っていたが、予想以上にピ−クの登り下りがあり、なかなか楽はさせてくれない。とくに出発してから6時間ちかくになってから登ることになったスバル岳の登り道は結構こたえる。ただ、この辺りはコマクサのちょっとした群落地となっており、適当に写真休憩も織りまぜながら楽しく登る。  モデルにふさわしいコマクサを探しながら進むが、高山植物の女王と言えども人の子同様なかなか容姿端麗な株は少ない。そのうちそこそこの株に出合い、踏みつけないようにしながらしっかりモデルを演じてもらう。人は外見で判断してはいけないけれど、花はやはり見た目で評価してしまう。花に対してはこれが自然なのだろうと自分なりに納得しながらカメラに収める。  やっとガスも切れ間が見えはじめ、スバル岳頂上を通過するころにはすっかり晴れ上がってくれた。今回の山行きの主峰となる針の木岳頂上に12時25分到着。振り替えれば昨日登った爺が岳がドッカと腰を据え、名前には似つかわない威厳をもって鎮座している。今日一日で随分歩いたものだと感心し、頑張った足をさすって慰労してやる。  頂上から針の木峠に立つ針の木小屋までの急な下りを、膝をかばいながら一歩づつ下ってゆき、13  時35分針の木小屋に着く。  しばらくすると外で何やら騒がしく、何事かと外に出てみると針の木岳西面の急斜面に少し残っている雪渓にポツンと何やら見えるという。誰かが『かもしか!かもしか!』と言い始めると、小屋から早速従業員が三脚と望遠鏡を取り出してきてセットし、ピントを合わせて覗かせてくれる。たしかにカモシカがいる。警戒心が強く崖での生活が日常化しているとはいえ、どうやってあんなに急な斜面の岩場を自在に行き来出来るのかと感心する。そこえゆくとあの雷鳥の無警戒ぶりは何なんだろうと、また別の感心もしてしまう。しばらくこちらの様子をじっと眺め、彼なりに人間の動作を観察しているかの様  子であったが、やがて急斜面の樹林の中に消えてゆく。なんと平和でのどかなな光景であることか。  

■ 8月4日(木) 晴れ

5時30分起床、今日は針の木雪渓を下ることになるが、その前に荷物を小屋に置き、蓮華岳を往復すべく6時30分に小屋を出発する。ガスが切れたり覆ったりする中を蓮華の急な登りに取りつく。1ピッチ登った頃、朝日が切れかけたガスの中を木漏れ日のように射してくる。丁度稜線近くまで登っていたため、我々の影がこのガスの向こうにくっきりと写り、その周辺に虹が取り巻く「ブロッケンの妖怪」と呼ばれる現象に偶然出くわす。以前冬山で一度経験したが名前からは異なったイメ−ジの綺麗な現象だ。早速自分の後光の照る写真をパチリ!この間約10分で消えてしまう。  7時45分、蓮華岳頂上着。ここにはコマクサの大群落があると読んでいたが、想像以上の規模の群落にびっくり。コマクサの習性として自分以外の高山植物は寄せつけないため、この山の頂上一帯がコマクサで占領されている感じだ。株の数は2万や3万できかないだろう。ときどき白花コマクサがあると聞いていたので、これだけの数の中、1本や2本はあるだろうと必死に探した末、反対斜面側でようやく1株見つけることが出来た。「ラッキ−!」とカメラにパチリ。・・・・。  なかなかすっきり晴れない中小屋に帰り、荷物を背に針の木雪渓の下りにかかる。上部から見る雪渓は鋭く切れ落ち、行く手は濃いガスに吸い込まれるように消えている。さすが日本三大雪渓だけにスケ−ルも大きい。雪渓も登りよりも下りのほうが危険である。スリップすればかなりガスで見えない中、かなり下まで滑ってゆきそうだ。持参してきたアイゼンを靴にセットし下降開始。前をアイゼンなしで下る男性はかなり手こずり、なかなか下れない。その横を我々アイゼン組はカシャカシャと雪にキシム音を残しながら快適に下ってゆく。  下降するにつれ次第に雪渓の厚みも薄くなりはじめ、どこまで雪渓の上を通って安心なのかを判断しながら、ガイド用の赤ペンキに気を付て下ってゆく。 "のど"と呼ばれる針の木雪渓の中でも最も急峻な所を通過すれば雪渓も薄くなり、これ以上雪渓の上を歩くのは危険と判断し左岸に移る。山腹を大きく巻き込むように下り、樹林の中に静かに建つ大沢小屋に着く。  この辺りまで下ってくると高山植物より亜高山の植物が多く目につく。イチヤクソウ、オオウバユリ、タマガワホトトギス、モリアザミ、ホタルブクロなどもそれなりに美しい。  さらに1時間30分の下降で扇沢バスタ−ミナルに13時40分に降りてきた。出来れば中房温泉に1泊と思い電話してみたがやはり満員で駄目。大町までのタクシ−相乗り客が「大町の民宿を予約しているが急用で使われない。よければどうぞ」との話に「乗った!」とばかりに引き受け大町の民宿で1泊。  

■ 8月5日(金) 晴れ

午前中は大町の観光めぐりとして、『大町山岳博物館』『若一王子神社』などを見学・鑑賞し、午後の列車で帰路につく。  

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