行 動 記 録 |
新入社員から男性6名、女性1名の新入部員を迎えた。今年は7月に3個も本土に上陸するという台風の当たり年にふさわしく、部にも彼らによって大きな風穴があけられ、清々しい風が台風のごとく吹き込んできそうだ。 そんな彼らのうち4名が参加しての今年の夏山合宿。ひとつひとつ経験を重ね、やがて彼らも「山の奥深い味わい、四季おりおりに見せてくれる素晴らしい姿に接し、感動し、山に魅せられ、新鮮な遊び心のライフワ−クを大切にする若者」に育ってほしいと願っている。 |
■ 7月28日(月) 曇り時々小雨
今回は車での入山である。朝6時にJR兵庫駅前に集合。伊藤CL, 井川SLの2台の車に分乗し6時30分に出発する。心配していた台風11号も、先週のうちに日本海へ抜け、「台風一過」の晴天を誰もが確信していたこの週明け。しかし、今年の気圧配置は何時もと違っている。一旦日本海へ抜けた台風はしばらく停滞し、向きを一変し東へ向かい富山方面に再上陸? 「ヤメテクレ−!今から富山へ向かうのだ−」
「伊藤車」「井川車」時折り無線で交信を取り合いながら東進、京都南辺りで30分ほど渋滞につかまりながら「多賀SA」で休憩。
このあと米原JCから北陸自動車道にはいり、福井あたりで前方に雲の切れ間が現れるが回復の兆しとまではゆかない模様。「尼御前SA」の休憩で井川車にガソリン給油。「\104/l
安い」晴れていればやがて立山・剣の峰々が見えるであろう辺りを通過し、12時10分「立山IC」から降りる。しばらく県道のような、農道のような道を肉の調達先を探しながら進む。あった!。「最後のコンビニ・サンダ−バ−ド」・・この店の名前はなんだ?不安な気持ちを抑え「あのー肉も有りますか」「あるでよ。冷凍が」・・・テントシ−トも合わせて購入。ここで昼食を各自購入し「下界の飯もしばしの別れ」と店の前でパクツク。
立山町千寿が原の駐車場に車を入れ、此処からは自分の足が頼りの世界である。勢いが増した雨足に雨具を付けケ−ブルに。7分間の「直登」で標高1000m
の美女平へ。さらにバスに乗り継ぎ「ガスで見えぬ辺りが称名の滝」の運転手のすまなさそうな説明を聞き流し弘法・弥陀が原で数人づつのお客を降ろし天狗平を経て室堂に15時35分に到着。ほぼ予定の時間である。 時間帯が夜行列車利用の朝着と違い、午後の3時半、しかも天候が良くないために登山を見合わせた者も多いせいか、いつもの喧騒はない。
立山自然保護センタ−に持参した登山計画書を提出し、今日のテント場 "雷鳥沢”へ向かう。整備された遊歩道脇には
"ヨツバシオガマ" が雨露を重たげにふくみながらも、いまがさかりと迎えてくれる。
ミクリガ池の残雪も例年よりやはり少ないが、紺碧の湖面はいつ見ても神秘的なたたずまいですがすしい気分を味あわせてくれる。雨で滑りそうな石の遊歩道を下り、硫黄の匂いと吹き上げるガスの湯煙りがたちこめる
"地獄谷”に踏み入る。辺りの岩肌は白・黄・茶色に染まりあちこちから吹き上げる白煙とグツグツ沸騰している湯だまりに
"地獄”のイメ−ジがよぎる。あちこちに「有毒ガス・危険!柵から入るな!」との看板あり。長居は無用とテント場に足を進める。
雷鳥沢テント場に16時30分着。車での入山では時間的にはここまで。今日はテントの数もそう多くない。トイレも水洗だし気持ちのよいテント場での一夜になりそうだ。時折ガスの切れ間から明日のコースとなる雷鳥沢の登りのルートや、別山乗越がはるか見上げるところに見え隠れしている。 |
■ 7月29日(火) 曇り時々小雨
5時起床。天候は良くないようだ。昨日はテント場着の時間の関係で16時からの気象通報での天気図の作成が出来なかったため、今朝の短波放送で天気図を作成したが、天候回復の期待は無理のようだ。
佐々木、井川の両名がせっせと朝食の準備をしてくれる。「新人君達しっかり見ておいてよな」テントを撤収し7時15分出発。濡れたテントは若干重くなっていることだろう。しかし、いまどきのテントは軽いもの。「新人君、ガンバッテくれたまえ。」
称名川上流の沢にかかる丸太橋を渡り、いよいよ雷鳥沢の登りである。ここは年寄り組のペ−スで登ろうと、先頭菅田、最後尾伊藤で呼吸を整える。このル−トも何度目だろうか、前回は残雪に足を滑らせながらも涼しい風になぐさめられながら登った記憶も、今回は地道のせいか途端に汗が吹き出してくる。ぐんぐん登りながら振り返れば小さくなったテント場、ガスにけむる地獄谷、広々とした弥陀が原の台地がどんよりとした雲の下に広がって見える。
今年は高山植物の開花のタイミングがよいのか、ヨツバシオガマ、ニッコウキスゲ、アオノツガザクラ、ハクサンイチゲ、ミヤマキンポウゲがあちこちで群れをなして咲いている。途中一度休憩をとり、快適なピッチで登り、8時45分別山乗越に着くや端に雨の洗礼を受ける。視界7〜8m,ガスってなにも見えない。ここ御前小屋は利用者が少ないせいかやたらと静かなたたづまいに、入ってみるのも気が引ける。雨具を付け剣沢に下る。途中左手からの雪渓の斜面をスリップしないように注意し通過。小屋に着いたがテント場はない。聞けばどうやら剣沢小屋ではなく、剣山荘に来てしまったようだ。別山乗越からのル−トを完全に錯覚していたことになる。申し訳ないがここから剣沢小屋へトラバ−スである。今日の行程は剣沢小屋までの為、時間の余裕はたぷりあるものの、やはりお粗末な錯覚であった。剣沢小屋も昔の場所には無く、少し上流の左岸側に建て替えられていたためロスタイムは約1時間強となってしまった。
休憩時には適当に行動食を口に入れる。行動食は個人持ち、各自好き好きのものを持参している。いつものことながら、行動のメニュ−にはなかなか決め手がない。軽くてかさばらず、日持ちするものとなると難しい。今回持参した
"ちくわ" " キュウリ" は自己の定番であり、うまかったがあまり日持ちしないので早めの消化となり、二日目、三日目に欲しくなる新鮮なもの、口当たりのよいものは今回もこれといったヒット食無し。さらに工夫しておきたいものだ。
剣沢のテント場は剣岳の眺めが良く、晴れていれば実に気持ちの良い場所であるが今はガスの中。テント設営後、沸かしてくれたコ−ヒをのみながら、ホットなひとときを過ごす。午後から近くの雪渓の斜面でアイゼンを付けない雪面の登下降の練習、持参したピッケルによるグリセ−ドの練習をするが、下から眺めてかなりの傾斜のように見えた斜面も登ってみれば以外と緩く、おまけに夏の雪渓特有の湾曲した雪面のせいで練習にはイマイチ。それでも他の山域ではこの時期には体験できない雪上訓練だ。贅沢言わずに「これも体験」と小1時間練習する。
15時35分、津川リ−ダ率いる15名のロ−トル部隊(会社の工師会・技長会の構成メンバ−による夏山行事)が室堂から立山縦走を経て剣山荘に向かう途中に立ち寄る。せっかくの3000m
縦走もあいにくのガスで視界もなく、雨具を着たり脱いだりの縦走だったとのこと。顔見知りも多く、明日の剣岳登頂に向け、互いの健闘を誓う。
一眠りした12時頃か?大粒な激しい雨の音に眼が覚める。しばらく降り続いたがテントフライの効果も大きく何等こたえない。あ−あ、明日は雨で停滞かとうつろな頭に響きの悪い雨音ばかりが耳につく。「エ−イ、明日は明日の風が吹く。大いに吹いてガスまで飛ばせ!」と寝袋をかぶり眠りにつく。
|
■ 7月30日(水) 曇りガス多し
3時30分起床、テントの外で井川が「星が見える。さっきまではもっと見えていたのに・・・」との声に顔を出してみると確かに雲も懸かっているが星も見える。期待出来るのか? 昨日作成した天気図からはあまり期待できそうな気圧配置ではなかったようだが・・。気温は10℃と昨日の雷鳥沢テント場より2℃低いが標高が上がったせいで、好天への兆しでもなさそうだ。
あつあつの雑炊で鋭気を付け行動食・水筒・雨具などをサブザックに詰め、軽く体操で身体をほぐし、5時15分テント場を発。剣山荘までの水平道は歩きはじめの足ならしには丁度よい。山荘から登りはじめてまもなく、一服剣手前で何やらゴソゴソ探しはじめた佐々木(隆行)。どうやらはめていたコンタクトレンズを落としたらしい。「確かこの辺りに落ちていった」「3万円以上する−・・」たしかに困った。高価なものであるが、それよりこの先のコ−スは片目では遠近感もとれず、手さぐりでは登れまい。交代で必死に探すがなにせ透明で小さなもの、まったく見つからない。「俺の予備のコンタクトレンズをしてみるか」思っても見なかったコンタクトレンズの予備を井川が持ってきているという。
おどろいた御人だ。多少の "度" の違いは有るだろうが "片目よりはるかにまし"
と苦戦しながらも装着完了。
「十分です。」
との声にひとまず安堵し、落としたレンズは帰りに「懸賞つきでもう一度探してみよう」と半分あきらめの言葉で納得させ先へ進む。
前剣手前で鎖場のトラバ−スが始まる。幸い下にスッパリ切れ込んだ高度感はガスのせいで見えない。足場をしっかり確かめ、身体を岩から離して、鎖だけをたよることなく慎重に通過するよう指示し、全員なんなく?通過する。さらに何度かの岩場の登りを繰り返し、7時15分、前剣で小休止。ここから平蔵コルまでの下りを雷鳥に迎えられながら進み、8時15分避難小屋のあるコルに着く。この先の登りが
"かにの縦ばい”と呼ばれている垂直にちかい30m 程の岩場の登りとなる。先行していた津川隊もこの渋滞に順番待ちで待たされていた。
しっかり打ち込まれたステンレスの丸棒、ステンレスの鎖に導かれて登る。ここは登り専用のル−トで、下りは別のル−トが安全と渋滞緩和に付けられている。手足をフルに使っての慎重な登りのため渋滞は仕方あるまい。この岩場を通過すればあとは2、3の鎖場があるものの、頂上まではそんなに急峻なところも少なく、剣岳頂上も近い。
9時8分、ガスに包まれた頂上に立つ。な−にも見えない。ここの頂に立つのも確か7度目であるが、昭和37年の夏山合宿に最初に登ったときもこんな感じだったことが思い出される。あの時は頂上で雨がポツポツしはじめ、濡れた岩場の下降より、ゆっくりピッケル・アイゼンを使って長次郎雪渓を下ったほうが・・・と、土砂降りのなか時折スリップをしながらずぶ濡れになってガタガタ震えながら小屋に帰り着いた苦い思い出がよみがえる。後々思えば冷や汗ものである。
一足先に下山に向かう津川隊から燃料のガスを1個もらい受け、我々も行動食を済ませ下降開始。登りにも増して下りには慎重に足場を確認しながら、鎖、鉄梯子を伝って下降。1時間半で前剣に着く。
一服剣の近くまで下った所でコンタクトレンズを落とした佐々木が何やらソワソワしている。聞けばコンタクトレンズを見つけた」と言う。何という執念!よかった
よかった。
緊張するル−トも終え、道端に咲くミヤマクロユリや、チングルマの綿帽子にカメラを向けながら下降。剣山荘前ではホ−スで引いてきた冷たい水がざあざあ流れ込む水槽の中で、缶ビ−ルが実にうまそうに微笑みかけてくる。そこをグットこらえてホ−スの水を只で戴くこのつらさ・・・?腹に入ればビ−ルも水も変わらん変わらん・・と、苦しい言い訳。13時20分テント場に帰り着く。少しづつガスの切れ間も多くなってきたようだ。雨具や濡れたものを外で乾かしておこう。
先程通ってきた昔の剣山荘跡あたりのお花畑にカメラを持って散策に出掛ける。今日はじっくり撮影が出来そうだ。砂礫の中にのこぎり状の葉が4枚、四方に輪生していることから名前がついたヨツバシオガマ、赤紫のくちばしのような花弁が特徴的だ。クリ−ム色の小さな釣鐘をたくさんぶら下げ、愛嬌をふりまくアオノツガザクラ、直径40〜50センチの群れをなして星を散りばめたように咲く白い小さな5弁の花はイワツメクサ、タンポポに似たウサギギク、上から眺めると風車のように見える巴(ともえ)の紋に見立てて名付けられたキバナトモエシオガマなどなど、ここだけでも20種くらいの高山植物が「我こそ一番!」と言わんばかりに咲き競っている。
5時40分、剣岳の八つ峰 据歯状の岩稜がくっきりと見えはじめ、やっと剣岳の山ふところにいる実感がこみ上げてくる。西陽に照らされた別山の稜線は、真っ青な空に濃緑の絨毯が映え、所々に残る残雪はひときわ白く、回りの色にコントラストを演出している。この分だと夕焼けに染まる剣岳の
"モルゲンロ−ト" が見られるかもしれない。 期待しながらカメラ片手に待ったが、前剣の残照のみにとどまり今年はこれが精一杯と諦める。 |
■ 7月31日(木) 晴れたり曇ったり
3時30分起床、テントを飛び出せば今朝は満天の星空だ。久しぶりに見る
"天の川”に "彦星”と "織り姫星”を探してみるがハッキリしない。気温は8℃。やはり晴れれば気温も下がる。剣岳本峰はきれいなシルエットに包まれ、夜明けを待っている。
今日は立山縦走日。テントを撤収し剣沢を後にする。別山分岐点で縦走隊と別れ、菅田一人は奥大日岳経由で雷鳥平のテント場に入ることとし、無線の周波数と交信時間を確認し別山乗越へ。 あれだけ晴れていた上空も再び濃いガスに包まれ、別山乗越は入山時と同じく何も見えない。若い女性の単独登山者がここから奥大日の方へ消えてゆく。お!同じコースか? ほとんどこの方面に向かう者はいないらしく、誰にも遇わない。長い下りが続きぐんぐん下がってゆく。「腰にこたえる。」と腰のサポ−ト帶を締めなおし、さらに下降を続け6時55分、室堂乗越に着く。昨日までのようなお花畑は無く、高山植物の種類もめっきり少ない。こんなはずではなかったに・・・。
喉を潤し先へと進む。花が少ない分撮影休憩も少なくなり、どんどん稼ぐ。途中の交信では縦走隊もかなり早いピッチで飛ばしているようだ。先頭
"井川" では納得。大丈夫かね "伊藤さん" ・・・。
カガミタン乗越で "こちらからの剣岳の写真が撮りたくて・・・"
という青年と前後しながら奥大日頂上に8時55分到着。大休止。3パ−ティ10人程度の静かなテッペン。先行しているはずの女性にはとうとう追いつけず。
足元の不安定な斜面に咲くトウヤクリンドウを是非写真に収めたく、慎重に降りパチリッ! 頂上付近ではミヤマカラマツ、タテヤマトリカブト、ミヤマダイモンジソウ、ナエバキスミレ、ハクサンチドリ、キヌガサソウ、エンレイソウ、ミヤマコゴメグサや名も知らない野性欄など昨日の剣では見なかった高山植物が見つかり奥大日の評価もアップ。
残念ながらここからの剣岳はガスの中。これより来た道を引き返し始めたが、あまり回りをきょろきょろしすぎて、道を間違え20分のロス。室堂乗越から雷鳥平のテント場に12時10分着。立山縦走隊を待つ。
夕食前のビ−ルで乾杯!うまい−!!!。今夜の夕食は新人君達に全面おまかせ。しっかり頼むよ。
|
■ 8月1日(金) 曇り
5時起床、今日はもう下山日。朝食を済ませ、テントを撤収し最後のパッキング。地獄谷経由室堂からバス・ケ−ブルを使い都会人に戻る。駐車場で入浴には
"厚生年金休暇センタ−”が良いとの聞き込みで早速移動。入浴時間が10時30分からのため1時間を駅前の
"文部省富山登山研修センタ−" に見学にゆく。弊部伊藤山岳部長の「兵庫県山岳連盟副理事長」の訪問に快く館内説明をしていただき、資料室、屋内フリ−クライミングボ−ド等立派な設備を見せていただく。さすが文部省設備と感心しその感触を初めて肌に触れる。井川・佐々木(ひとみ)両君は最近フリ−クライミングにも興味があるらしく、しきりにその感触を楽しんでいた。
「伊藤さん、兵岳連にもこんな規模のものが欲しいものだね・・・」
たっぷり1時間をかけて1週間の汗を洗い流し、サッパリ気分で帰路につく。伊藤・井川 両運転手に感謝、感謝。
|