仲間と登った想いでの山々

氷の山越えスキーツアー

と き昭和33年3月22日(土)〜3月23日(日)
コ−ス
神戸=国鉄八鹿=大久保(YH万両)〜東尾根〜千本杉〜氷の山頂上〜二の丸〜戸倉=姫路=神戸
メンバー職場の先輩仲間5名に同行
行 動 記 録

■ 3月22日(土) 晴れ

今回のスキ−は初めて自分のそりで楽しむこととなる。ただし、靴は山靴兼用としているためスキ−本来 の靴のようなわけにはゆかないが、反面山行きの装備でスキ−が楽しめ、特に今回のようなツア−としてス キ−を楽しむ場合、スキ−靴を余分に持参しなくてもよく、装備が軽くなることが大きい。  今日は、鉢高原でのゲレンデスキ−を楽しみながら、新しいそりに慣れることとする。 エッジは良くきくがその分引っ掛かりが大きくスム−スな滑りはなかなかできない。それでも今までのよう な借り物ではないのでそりに傷がつくことへの気づかいもない。  鉢伏高原のゲレンデから、高丸山近くまで上がり、適当に斜滑降とキックタ−ンを混ぜながら滑り降りて くるがまだまだスキ−は慣れない。何度も転びながらの練習の明け暮れとなる。  今夜は "ユ−スホステル万両"で温かいもてなしを受けての一夜を過ごす。

■ 3月23日(日) 晴れ

今日は初めてのスキ−ツア−であり、やゝ緊張気味の朝となる。コ−スは東尾根から氷の山を越え、二の 丸から殿下コ−スをたどり戸倉へ抜ける最もポピュラ−なコ−スであるが距離は結構長くたっぷり一日を要 するコ−スでもある。  はやる気持ちと一抹の不安が頭に同居しているような気分を身体中に浴びながら、万両のおばちゃんが作 ってくれた昼弁当のお握りをザックに詰め出発。  福定まで少し下り、八木川を右岸へ渡り東尾根への支稜に取りつく。そりを担ぎザックを背にかなりの傾 斜の登りを時折膝までもぐる雪面を踏みしめながら高度を稼いでゆく。  徐々に高度を上げ、振りかえり見る鉢伏高原を次第に見下ろすようになるころ、東尾根の主稜線に出る。 時々1本たてながら(休憩の意)ぶな林を進む。千本杉と呼ばれる杉林を抜けて小千本までくれば森林限界 となり、神大ヒュッテ前に着く。ここまで来れば頂上までは後わずか。一息入れ一気に氷の山頂上を目指す 。 快晴とまではゆかないが天気は上々。箱庭のように見える「鉢高原と鉢伏山」も夏の様子とは全く異な り、白い絨毯を敷きつめたおとぎの国の感すらしてくる。  昼飯を済ませ氷の山頂上を出発。ここからはいよいよスキ−の出番だ。頂上で磁石により230度の下降 方向を確認し、秋山リ−ダを先頭に尾根筋を二の丸目掛けて滑りだす。  事前に調査してきた氷の山頂上からの参考方位は 頂上の三角点のやぐらの四隅の柱は図1のように設置されており、    1.北から110度の柱の方向が登ってきた千本杉経由東尾根の方向。  2. 230度の方向が二の丸の方向。  3. 300度の方向がコシキ岩を経由して辿る "ぶん廻し" コ−スの下りである。   右手の舂米村から吹き上げてくる風もなんとなく心地よい。二の丸までは稜線沿いのコ−スをたどり、い くつかの小さな起伏を越えての緩い下りである。  二の丸から戸倉へのコ−スのとりかたは、  1. 二の丸頂上より方位角170度に下る。  2. 頂上より距離1400m辺り(標高約1280m)に避難小屋あり。  3. 頂上よりコ−ス標識No.30までの距離約3800mの間は切り開きの快適な滑降コ−ス。  4. 二の丸から戸倉の村までは 2.5〜3時間みておけばよい。 との事前調査の情報を頭に二の丸を後にする。ここから森林限界を過ぎ、切り開かれた下りの滑降コ−スは 素晴らしく、自然と "ヤッホ−" と叫びながらの下りとなる。  この素晴らしい滑降もその後に発生したアクシデントに暗転してしまった。  森林帶に入り、コ−スも自由にとれないことと、自由に滑れない未熟さからなかなか思うように滑れない 。ある時は太い木に正面から突っ込みそうになったり、曲がらなければならないところで曲がれずに突き進 んだり、四苦八苦の滑降ならぬ単なる転倒下降の連続となる。  何度目かの転倒で右膝に痛みが走った。どうやら左に転倒したときに左足のそりのエッジの上に右膝を乗 せてこすり、ナイフで切るようにエッジで切ったようだ。丁度はち切れそうな一口ようかんの外袋をナイフ で切るとパカット皮がむけるが如く、曲げて丸くなった膝頭の上から反対の足のスキ−のエッジがナイフの ように滑っていった恰好になったようだ。  ズボンも厚手のパッチも切れ、膝から出血しており、早速秋山リ−ダに手伝ってもらい、リ−ダ持参の応 急手当用の消毒と油紙を巻き付けて包帯とタオルで縛る。感じから出血は続いているようだが下るしかない 。なるべく右足には体重をかけないようにしながら下降してゆく。戸倉の村までは後1時間半はかかりそう だ。途中出血が止まらないようなので足のつけ根をタオルで縛り、木切れでさらに絞り込み止血を行うがど うしても体重がかかり完全な止血にはなっていないことが自分でも感じ取れ、焦りと苛立ちも沸いてくるが 自分の不注意・未熟さから起ったこと、メンバ−に申し訳ない気持ちと頑張って少しでも早く下れることを 考えながら進む。  夕刻薄暗くなった頃やっと戸倉の村に着いたものの、姫路行きの最終バスは15分ほど前に出てしまった とのこと。事情を話したところ「自家用車でバスに追いつきましょう」と言ってださり、ご好意に甘えるこ ととなる。  約30分で最終バスに追いつく。お礼もそこそこにバスに乗り込み空席を探すと、幸い最後列の長椅子に 空席があり、そこに右足を伸ばした恰好で座りホッとする。時々、足のつけ根を縛りつけている止血のタオ ルを少し緩めてやるが、その都度しびれたような感覚の右足に生ぬるい感じが伝わってくる。  「焦っても仕方ない」と自分に言い聞かせながらも、「早く治療をしてもらいたい」気持ちが姫路までの 距離をやたら長く感じさせる。  姫路でバスを降り、診察してもらえる外科医院をタクシ−で探す。今日は日曜、休診日であるが仕方ない 。駅の近くの外科医院にタクシ−の運転手が案内してくださり、無理をお願いし治療をしてもらう。  「なかなか派手な切り方をしたね。鉛筆の芯くらいの太さの動脈が切れている。つながらないので切れた 血管を結んでおきましょう。」自分でも「かなり傷口が深いかな」と思っていたが、座った状態で治療をし てもらいながら見たところでは、傷口は長さ5cm,深さ1cmくらいのようだ。切れた動脈の両端をそれ ぞれ縛り、一端傷口の底の方で4〜5針縫合したのち更に外から5針縫合して完了。  時計はすでに12時を過ぎている。お礼を言いびっこを引きながら姫路から国鉄に乗り、秋山さんに付き 添って貰っての帰宅となる。 秋山さんはじめ同行のみなさんには大変ご迷惑をお掛けしてしまいました。  なお、姫路での治療の費用は健康保険証を持参していたため、初診料の100円で事足りたことは、健康 保健のありがたさと、保険証携行の必要性を痛感した。  3日の休暇をとり、4日目からビッコ通勤開始。2か月程は膝が曲げられず、不自由な生活を強いられる こととなった。

 

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