仲間と登った想いでの山々

昭和38年度夏山合宿・北アルプス剣岳(池の谷)


と き昭和38年7月29日(月)〜8月4日(日)
コ−ス
神戸=富山=馬場島〜小窓尾根乗越〜池の谷BC〜池の谷尾根・右俣奥壁登攀〜馬場島=富山=神戸
メンバー(CL)後藤、(SL)菅田、鈴木、弘田、南、中塚、西尾、大塩、郷原、大学、西本、柳瀬

行 動 記 録

■ 7月29日(月) 晴れ

 今回も朝から山行きの装備・服装で出勤、定時後大阪20時08分発青森行き普通夜行列車でのスタ−トとなる。 ■ 7月30日(火) 晴れ

早朝の5時12分富山着。5時32分発の富山地鉄に乗り継ぎ上市に5時57分着。さっそくチャ−タ−しておいたトラックに荷を積み乗り込む。我々をうらめしそうに見つめていた単独行の一人を便乗させることとし6時15分に出発。トラックの荷台で風をきりガタゴト揺れながら皆じっと膝を抱えて耐えている。夏とはいえ朝の谷間の風を切って走るトラックの荷台はさすがに肌寒い。  やがて馬場島を過ぎ白萩川の広い川原を大きくバウンドしながら約1時間半で第三堰堤に7時40分に着く。トラックはここまで。各自持参した朝食を済ませ入山を開始する。池の谷出合いを過ぎる辺りで渡渉を強いられる地点が2〜3あり、靴を脱ぎ膝までつかりながら慎重に進む。時々バランスをくずしふらついたが全員渡渉地点を通過し、小窓尾根取り付き点で休憩、ここからの急登にそなえる。  きつい登りを大きなザックを背にし、四つんばいになりながら登り高度をグングン稼ぐ。約2時間半の苦しい登りのすえ小窓尾根乗越に着く。少し池の谷側から覗けば剣岳西面が手にとるように眺められ、目指す剣尾根、池の谷尾根、池の谷右股奥壁がバッチリである。  これよりベ−スキャンプ地の池の谷雪渓末端までは小窓尾根をトラバ−ス気味に下ってゆき13時35分キャンプサイトに着く。雪渓の末端という地形のため吹き降りてくる風も冷たく真夏とは思えない12℃という気温に急いで汗を拭き取り長袖を着込む。雪渓末端から流れ出た水の冷たさは3℃、10秒も手を漬けていられない水での炊事である。

池ノ谷雪渓末端にBC設営池ノ谷雪渓をつめる。前方正面は剣尾根


■ 7月31日(水) 晴れのち曇り

6時起床 10℃ ヒンヤリ肌寒い。朝食後後藤リ−ダ−の雪上訓練組と二股で別れ菅田、鈴木、弘田、南の4名で池の谷右俣奥壁の偵察に出かける。雪渓の雪質は良く快適にアイゼンに食い込む。  右手に迫る剣尾根を肌に感じながら次第に傾斜を増してゆく右股の雪渓をつめてゆく。やがて再び二股となり、左の沢は両岸がスッパリ切れ込んだルンゼとなって幾重にも連なる滝を有している。この辺りからは、雪渓もクレバスが多くなり、なかなかすんなりとは登れない。我々はとりあえず二股の出合いに延びている尾根から偵察すべく取りつくが、浮き石とブッシュに結構てこずる。ここからみるかぎりでは特にやっかいなル−トでもなさそうと判断し偵察を終え下降、二股で雪上訓練組と合流しBCへ帰る。BC着15時、薄曇り 14℃

■ 8月1日(木) 雨のち曇り

夜半から降りだした雨は朝になっても降りやまず、今日の行動は停滞と決定。くやしいけれど仕方がない。そんな気持ちで空を眺めていたのが通じたのか、やがて雨も上がり曇り空となる。それではと柳瀬をテントキ−パ−に残し左股三の窓方面に出かけることとする。剣尾根もガスにかかり見えないが左に小窓尾根、右に剣尾根の衝立のような両岸に押し狭められたここ左股雪渓の威樣な威圧感は剣岳特有のものであろう。時々晴れ間がではじめるがガスはなかなか切れてはくれない。見た目には近くに見える三の窓のコルも行けども行けども全然近づかない。それだけスケ−ルが大きいということだろう。  14時50分、剣尾根第五ルンゼ(R5)取り付き点まできたところから引き返し、明日は何としても晴れることを願いつつ今日の行動を終了する。

■ 8月2日(金) 快晴のち曇り  池の谷尾根登攀(菅田、鈴木)

左俣の雪渓をつめる


3時20分起床、テント内15℃ 外気11℃、満天の星空が美しい。昨日の予定であった池の谷尾根アタックも、雨のため一日に繰り下げられ、今日のアタックとなり一段とファイトを燃やす。肌寒い感じのするBCをテントキ−パ2名を残し、剣尾根上部アタック隊(後藤、弘田)及びサポ−ト隊と全員揃って出発。左股に入るや何となく重圧感を覚える陰気な登りとなりアイゼンを効かして全員黙々と足を進める。第九ルンゼ(R9)取り付き点近くにクレバスがあったがここを過ぎると雪渓も終わりアイゼンを外す。例年だとこの先池の谷尾根末端付近まで雪渓が残っているはずだが、今年は非常に雪が少なかったのだろう。  池の谷末端地点で各隊それぞれ別れ個別の行動に移る。サポ−ト隊はこのまま三の窓を経由し剣岳頂上へ、剣尾根上部登攀隊は第二ルンゼ(R2)取り付き点へ向かう。我々はここから池の谷尾根にはすぐの取り付きとなる。下から眺めるこの尾根は以外に荒々しい容姿を見せ、途中三角フェ−スが二段重なるように鎮座しており登攀意欲を誘われる。  8時5分登攀開始。いざ取り付いてみるとあまりスッキリしたフェ−スクライミングも味わえず、浮き石とブッシュに苦しめられながら6ピッチで第一のコルに着く。R2を登りきった剣尾根登攀隊はすでに稜線を稼いでいるのを見てちょっと慌てさせられた。剣尾根隊とコ−ルを交わし、互いにハッパを掛け合いながら口にするミカンの缶詰が実にうまい。  上方の三角フェ−スが近くに見えるが、そこまでのル−トがやはりブッシュと大きな浮き石らしく、快適な登攀は望めそうにない。仕方なく左手20mほど下に上がってきている沢筋に下り、水のないガレ状のルンゼをつめ、第二のコルである馬の背のギャップに11時10分着く。  行動食を少し口にいれ、ブッシュのなくなった終盤の登りに取りつく。稜線の右寄りにル−トをとりつつ約1時間の登攀の末剣岳池の谷尾根のロッククライミングを終える。行く手を見れば長次郎の頭で剣尾根隊、サポ−ト隊はすでに合流しており急ぎ足にて我々も合流する。サポ−ト隊の熱い紅茶の接待に感謝しつつ降り省みる池の谷のやせ尾根も、すでにガスにかかりその全容を見せてはくれなかった。  池の谷尾根は登攀対象としてはあまり興味がないためか、取り付くパ−ティも少ないらしくい。したがって浮き石もゴロゴロ散在し、ときにはひとかかえもある大きな石がぐらりとくることもあり肝を冷やした。ル−トのとり方によって多少の差はあるかもしれないが、スッキリしたロッククライミングを望めるところは少ないようであった。  大休止の後全員で池の谷乗越から三の窓経由でベ−スキャンプに帰り今日の行動を終える。

■ 8月3日(土) 晴れのち曇り

右股の雪渓もズタズタF1の大滝は雪渓がパックリ


F1大滝の登攀・突破に1時間10分を要した右俣奥壁の登攀


3時10分目覚め起床する。今日はいよいよ本合宿の最終目的である池の谷右股奥壁の登攀行動日である。今朝も空にはまばゆいばかりに星が輝き、好天を約束してくれる静かな朝を迎える。  温かい朝食を済ませ5時丁度にベ−スキャンプを出発する。所要時間がかなりかかることも考えられるため、場合によっては完登できないかもしれない。あまり気負わず余裕ある行動とする旨の確認をしあい、引き締まった雪渓をアイゼンを効かして進む。昨日の登攀の疲れがまだ残っているのか足が重く進みがにぶい。右股F1の滝のある地点につき、雪渓より岩場に移り残されたハ−ケンと捨て縄の具合を確認し、アップザイレン(ザイルによる懸垂下降)にて滝の下部に降りる。7月31日の偵察の時にはここまで降りなかったために、右岸の方しかわからなかったが、左岸のクラックにはハ−ケンが数本残されているのが見える。この場所は日当たりもなく、雪渓の雪解け水がすぐ脇を雨のように落ちておりすごく寒い。小手調べにこのクラックに弘田トップで取りつく。ほとんど垂直に近く、滝のように流れてくる水の中を腕力による吊り上げで登りきると、2〜3人は立てるテラスがあり、そこにハ−ケンを打ちビレ−態勢(自己固定態勢)をとる。この登攀は1ピッチの30mぐらいであるがなかなかやっかいな登りを強いられた。  登ってみるとザッテルとよばれる地点は以外に近くに見え、解説書に示す如く問題はやはりこのF1通過のようである。案外時間も早く、このぶんだと上まで登りきれるだろうとの判断をし、4名全員がF1を登る。全員がF1を通過したのは、取りついてから1時間10分後だ。  ここより壁状ルンゼに入るのであるが、見上げる上部は全体の様相をとらえることができず、結局ル−トを間違え、左側のフェイスに取りついてしまい、しんどい思いをしながら登りきる。この辺りは、岩の上に浮き石が多く、行動中もビレ−していても落石ばかりしている。すぐ左には壁状ルンゼがありよく見れば簡単に登れそうである。一服ののちルンゼに入り、ザイルなしでザッテルまで急ぐ。このルンゼも上の方まで行くと大変なガラ場である。F1通過後2時間足らずで壁状ルンゼを飛び出し、ブッシュ漕ぎをしてザッテルに到着する。これまではF1を除き、うまくル−トをとればノ−ザイルでのぼることもできそうである。むしろ浮き石が多いので、ザイルなしで登るほうが危険が少ないと感じた。我々は壁状ルンゼの取り付きを間違えたので、1ピッチのみザイルをつかったが、そんな感じのするル−トである。テラス状になっているザッテルで休憩しながら、剣岳頂上に向かっているだろうサポ−ト隊にコ−ルするが応答なし。すぐ近くに感じられるようでもやはり山のスケ−ルが大きく相当離れてい るのだろう。  ザッテルからは、やはりザイルを付けず、ド−ム陵までトラバ−スしてド−ム陵のナイフリッジを登る。中央ルンゼ側はスッパリ切れ落ちており素晴らしい。アンザイレンすべきであるが全員充分気を付けてしばらく登ったのち、トラバ−スして奥壁に戻る。ここでアンザイレンし、鈴木トップでフェイスを登る。ハ−ケンが打ってあり、10mほど直登したあと20mぐらいフェイスをトラバ−スして1ピッチを終える。ここでザイルを解き、非常に浮き石の多いルンゼに入る。このルンゼも20mほどで終わり、剣尾根直下のバンドにでる。これよりバンドをバットレスの方へトラバ−スして、剣尾根の頭に突き上げている逆層の岩場を直登する。ここも1ピッチであるが、手で押さえただけで崩れそうな岩場で、大変いやな所であった。これを過ぎると剣尾根の頭に出て登攀終了となる。  皆、奥壁登攀の望みを達し、満足顔でベ−スキャンプへ向かった時は既に16時を過ぎていた。途中池の谷コル辺りで小雨まじりの雷雨となり、ゴロゴロ鳴りだす。背中にはピッケルがあり気持ちの良いものではない。幸い前線の通過によるものらしく、20分くらいでおさまりホットする。三の窓から左股をグリセ−ドで飛ばし、二股で先に下山していた西尾、大塩が熱い紅茶で出迎えてくれる。18時40分BCに帰着し、朝5時に出てから13時間40分の行動を終える。                    (この項は弘田君の山行記録も参考にさせていただいた)

■ 8月4日(日) 快晴

今日は下山日、快適な合宿生活を過ごしたここ池の谷ともお別れ、また来年もやって来ることを心に誓いキャンプサイトを後にする。再び重い荷をかつぎ、小窓乗越を経て白萩川に下り、11時50分馬場島着。気温31℃、さすがに暑い。今朝迄の10℃前後の楽園地がもう懐かしい。

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