仲間と登った想いでの山々

昭和38年冬山合宿 中央アルプス木曽駒が岳


と き昭和38年12月28日(土)〜39年1月5日(日)
コ−ス
神戸=木曽福島=駒の湯〜6合目BC〜麦草岳AC〜木曽駒が岳及び宝剣岳アタック後AC〜下山=神戸
メンバー(CL)後藤(SL)秋山、菅田、弘田、南、西尾、島倉、工藤

登山のあらまし


アタックキャンプを張る麦草岳に向い、6合目のベースキャンプを出発してからさらに天候は安定。 快適な雪の稜線を登る。皆それぞれ重い荷揚げにも気分は軽やかだ。後方には厳冬期の北アルプス・穂高連峰がくっきりと望める。

肩の荷も重くアタックキャンプ設営に向かう。



アタックキャンプ設営場所とした麦草岳に着く。この周辺は雪崩の心配はないが、その分風当たりは強そうだ。 吹き飛ばされないようしっかり設営しよう。前岳の雪稜もなかなか魅力的だ。
アタックキャンプ地点の麦草岳から南方面の雪稜



まともに風を受けることを避けるようになった場所を選び雪面を踏み固めアタックキャンプのテントを設営する。 オーバ手袋を付けたままでの作業はなかなか難儀なものだ。メインロープの緊縛をしっかり止め強風に備える。
麦草岳稜線にアタックキャンプ設営



アタックキャンプ設営の荷揚げと応援に登ってくれた仲間もベースキャンプへ下り、明日のアタックに備える。 日没を迎える頃にはテントの中から木曽駒のシルエットが望め、明日のアタックを盛り上げてくれる。
アタックテントから見るシルエットの木曽駒が岳


行 動 記 録

■ 12月28日(土) 晴れ

先発隊として後藤、弘田、南の3名が定時後出発する。

■ 12月29日(日) 晴れ

後発隊として秋山、菅田、西尾、島倉、工藤の5名が定時後出発。先発隊の3名は国鉄木曽福島駅前よりタクシ−を使い駒の湯を過ぎスキ−場のある中日ヒュッテまで乗り入れる。予想していたより今年は積雪が少なく、予定以上に奥まで入ることが出来る。  昨年秋の偵察時や冬山合宿のときは駒の湯から歩きだし、夏の夕立のような雨にあい、山麓のキャンプ場のバンガロ−で雨宿りしたものだ。偵察2回と合わせなんとよく通ったものである。今年こそは成功させて木曽駒も卒業したい・・・・。そんな事を考えながら三合目に向かう。今日は天気もよく春山に来ているようで、薄着をしていても汗ばんでくる。三合目あたりから雪がついているが、昨年に比べればずいぶんと少なく、ラッセルも苦労せずに四合目に着き、荷物をデポし駒の湯に下る。                       (この項は弘田君の記録を参照させていただいた)

■ 12月30日(月) 晴れ

我々後発隊も木曽福島駅よりタクシーで飛ばし、スキ−場のある所まで入る。途中昨夜駒の湯で泊まっていた先発隊がサブザックで入って行くのを追い越したが、スキ−場で合宿メンバ−全員が揃う。  先発隊の3名がここからのラッセルを引き受けてくれることになり大いに感謝。彼らも四合目まではサブザックであるが、そこからは昨日デポしておいた荷をかつぎ、大キスでの登りになりラッセルも大変である。おかげで我々はこのトレ−スを使いスム−スに高度を上げてゆく。三合目、四合目のきつい登りを一歩、一歩進むが時々足元が滑りバランスをくずし、大きなザックをかついだまま脇の深雪にたおれ、起き上がれなくなくなることもしばしば生じる。身体中雪だるまになりながら立ち上がるたびに体力の消耗ははなはだしい。四合目からは赤林山を左に巻くように進む水平コ−スとなり、黙々と登ってきた皆の口からも、冗談やこの天候の崩れないことを願う声などを交わしながらゆっくりと進む。  再び道は五合目への登り斜面となり、積雪も次第に増え先行隊のラッセルも大変だろうと感謝しながらふんばって登る。  フ−フ−いいながら16時50分、六合目の避難小屋に着く。今回はこの小屋をベ−スに計画しており、駒石上部をアタックキャンプ(AC)とすべく、テントはここでは張らないこととした。幸いこの小屋には利用者はいなく我々だけの貸切りとなる。今日は気温もあまり下がらず−6℃。

■ 12月31日(火) 晴れ

今日も良い天気だ。はやる気持ちを押さえ、全員で麦草岳のアタックキャンプ設営サイトに向かう。まるで春山のような気分の中、交代にラッセルをしながら進む。時々アイゼンが雪に埋もれた這い松にからみ難儀する。我々以外に先行したパ−ティもいないらしく、ふかふかの新雪は美しいが登るにはやっかいなしろものである。苦しいラッセルも森林限界を過ぎれば雪はしまり、アイゼンが心地好くサクサクと軽やかな響きに変わってくる。  昨年は吹雪のために引き返した駒石のピ−クも今日は難なく通過し、麦草岳のピ−クに着く。正面に木曽駒が岳本峰と宝剣岳の荒々しいピ−クが見えるように、入口の向きを決めACの設営をする。振り向けば御岳山、乗鞍のどっしりとした姿をはじめ、北アルプスの白き神々の名峰が一望できるビッグサイトである。設営後周囲に風除けの雪のブロックをしっかりと積み上げ完了する。  テント設営を手伝ってくれた今夜の小屋(BC)泊まり組の西尾、工藤の2名が走るようにはしゃぎながら下っていった。  暖冬とはいえここまで登れば明日の冷え込みも相当だろう。靴は凍らしてはいけない。眠るときには寝袋の中にしまいこみ脇に抱いて眠ることにする。

■ 昭和39年1月1日(水) 晴れ

元日、皆すがすがしい目覚めで新しい年の朝を迎える。下界であれば今朝は雑煮というところであるが、ここでは山へ入れば毎朝が雑煮であり、今朝も雑煮の煮込みから朝がはじまる。  六合目の小屋では、水作りの雪も小屋の外から運んでいたが、ここではテントのまわりが新雪で囲まれているため、雪取りはいたって簡単、出入口からヒョイとすくい取ってはコンロのコッフェルに放り込む。毎朝雑煮を食べているとはいえ、今朝は正月、女性部員が差し入れてくれたカズノコで元旦を乾杯!。「山に来てよかった。寮にいたら食べられなかったあ 」と島倉がはしゃぐ。  駒が岳の先、宝剣岳に向かう後藤、菅田、弘田の3名は駒が岳本峰隊の秋山、南、島倉の3名より一足先に出発する。昨年は本峰登頂が達成できなかったので、今年こそはと皆意気込んでいるが決して無理は禁物である。天候は昨日に比べやや下り気味であるが何とか今日一日はもちそうである。テントサイトからは急な草付きの氷結した下りとなり苦労しながら進む。次第に尾根は痩せてきて、大崩谷が足元まで深く切り込んでくる。冬というのに砂まじりの風が吹き上げて我々の頬に叩きつけてくる。顔を歪ませながら忠実に尾根をたどる。昨日AC設営時に通過していったパ−ティのものと思われるトレ−スをたどりしばらく進むが、牙岩の手前から何故かトレ−スは痩せ尾根からはずれ、前岳をトラバ−スするようにラッセルがついている。不信に思いつつそのまましばらく進んだところでラッセルは消えてしまった。どうやらここから引き返した模様である。  おそらくこの辺りは安全なテントサイトではないとの判断からであろう。我々もこんな場所は早く立ち去りたいものとラッセルを進める。 稜線とちがい風あたりは少ないが先行隊のトレ−スが無くなった分ラッセルの重労働が強いられフ−フ−あえぐ。やがて後続の本峰隊の3名に追いつかれたが、彼らも不信に思いつつ進んできたという。  右に覆いかぶさるような前岳の下を、雪崩を起こさぬように気を付けながら6名で交互にラッセルをして進む。痩せ尾根の稜線も緊張するが、急な雪面のトラバ−スも気をつかう。無事に玉の窪に突き上げる夏道に出てホッとし、つづくカリカリにクラスト(氷結)した急斜面をアイゼンを効かして1ピッチで登り玉の窪に着く。ここまでは我々だけだったので静かであったが、ここまでくると上松ル−トからのパ−テイが加わり賑やかである。無人の玉の窪小屋には雪がかなり吹き込んでおり、小屋のなかで雪洞を掘って居すわっている御人もいる。  ここからは本峰隊と別れ、少し登ったところから本峰南西斜面を巻き、所々持参してきた笹の赤布を帰りの目印に刺しながら宝剣へと進む。宝剣岳手前にある中岳周辺はかなり広い尾根であり、ガスがかかるとやっかいなル−トになりそうであることは一昨年の偵察登山の時に確認済である。幸い今年はガスもなく、強風ながら天候に恵まれたため、快適な冬山を過ごすことが出来そうである。  そそり立つような宝剣岳がまわりのゆるやかな稜線に不釣り合いに突っ立ている。雪は風に飛ばされ岩肌には氷結した分だけがへばりついている。オ−バ−手袋の上から鎖をつかみ、アイゼンを引っかけないように、一歩一歩噛みしめるようにピ−クの頂をめざしてよじ登る。  12時10分、宝剣岳2931mの頂上に立つ。気温−10℃ 吹きつける風が痛い。  たか曇りではあるが西に御岳、北西に乗鞍、穂高連峰等北アルプスの峰々、東に遠くには八つが岳、秩父の連山。南東方面には南アルプスと遠く富士山が小さく重なり、それぞれが自信ありげに我々に対峙している。足元から慴鉢状に切れ落ちた千畳敷カ−ルにはふっくらと、そしてたっぷりと雪が覆いかぶさって氷河期の名残を一層きわだてている。  たちまち冷えてきた身体にテルモスの熱い紅茶を分けて飲み、行動食を少しほおばりカロリ−を補給し帰路につく。帰りは木曽駒が岳本峰をたどり、玉の窪からも尾根筋を忠実にたどって下降することとし2〜3のテントが張られた前岳を通過。この辺りから地形は一変し、痩せ尾根の急降下の連続に緊張する。夏には登降できないこのル−トも、積雪期はなんとかこなせるとは言えやはり厳しい。それぞれ「厳しい、厳しい」を連発させながら慎重に下降してゆく。奇岩"牙岩"も何とかこなし、15時45分アタックキャンプ(AC)に帰り着く。六号目のベ−スキャンプの小屋から上がってきている工藤、西尾両君の用意してくれた温かい紅茶で喉を潤し、こみあがる満足感と達成感と共に彼らに感謝する。今夜はゆっくり眠れそう。

■ 1月2日(木) 晴れ

昨日の疲れからか或いは目的を達成した安堵感からか、今朝はぐっすり寝込んでしまう。昼前から西尾、工藤、島倉、弘田、菅田の5名で前岳へ向け出発。今日は曇っているが冬山にしてはおだやかな散歩気分と、昨日歩いたゆとりからか足取りは軽やかだ。しかし、時間的には出発があまりにも遅かったため牙岩まで行き、写真を撮りながら引き返す。  合宿の目的である木曽駒が岳本峰と、宝剣岳の登頂が達成できたので今日はACを撤収し六合目のACまで下降することとした。

■ 1月3日(金) 晴れ

風邪気味の後藤、秋山、南の3名が下山。残りは小屋の前の吹き溜まりで雪洞つくりの練習などをして過ごす。積雪量が足りず満足な雪洞が作れず誰も今夜は利用するものなし。

■ 1月4日(日) 晴れ

我々5名も入山時登ってきた道を下山。駒の湯で汗を流し車で福島駅まで行く。町の正月気分にも触れながら心地好く列車を待っていたものの「まもなく列車は270%の乗車で入ります。」との構内放送にがっくり。スキ−客を満員の列車にかろうじて乗り込み、帰神の途に着く。

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