仲間と登った想いでの山々

紅葉の北アルプス穂高岳縦走


と き昭和40年10月8日(金)〜8月12日(火)
コ−ス
神戸=松本=上高地〜岳沢〜前穂高岳〜奥穂高岳〜北穂高岳〜涸沢〜横尾〜徳沢〜上高地=松本=神戸
メンバー菅田他1名

登山のあらまし


三度目の上高地。さあ入山だ。10月ともなると上高地もあの夏のような喧騒もなく静かなものだ。 穂高の峰に迎えられ紅葉の穂高連峰の縦走のスタートをきろう。

大正池からの穂高連峰



2日目の前穂高岳への登りも上部になるにつれ次第にきつくなる。両手、両足をフルに使い3点確保で登って行く。
前穂高岳への道



前穂高岳の登り、紀美子平の手前の悪場。この登りももうしばらくで紀美子平だ。 あまり鎖に頼らず一歩づつ登って行こう。
紀美子平への登り鎖場



前穂高岳頂上に着く。”3090m がらがらのてっぺん”だ。ここからは吊り尾根を経て奥穂高岳に向かう。
奥穂高岳のてっぺんで、日陰に残っている2〜3日前の雪をかき集めてお湯を沸かしコーヒを飲む。うまい!
前穂高岳から奥穂高岳かな?



入山3日目。奥穂高岳から北穂高岳に足を進める。奥穂高と北穂高の間は結構厳しく、尾根の滝谷側を通るが日陰のため雪はカチカチに凍結しており、 アイゼンを慎重にきかしながら進む。
北穂高岳から眺める前穂高岳北尾根は1峰から6峰までがきちんと並び美しい。
北穂高岳から前穂高岳北尾根


奥穂高岳頂上より槍ガ岳を望む奥穂高頂上で新雪を溶かして呑むコーヒ


奥穂高岳頂上にて北穂高南稜の下降


行 動 記 録

■ 10月8日(金) 晴れ

大阪21時25分発急行"ちくま"に乗車、いつもの夜行列車の人となる。"ちくま"も準急から急行に格上げされ、茶色い車体からブル−の車体に変身、ちょっとリッチな気分でのスタ−トとなる。

■ 10月9日(土) 快晴

ひんやりと肌寒い木曽福島駅に早朝に降り立ち、5時15分発のバスで上高地へ向かう。まだ覚めやらぬ木曽福島の町並みを抜ける頃には、夜行の寝不足を補うべく直ぐにうつらうつらと眠り込む。釜トンネルの手前で目を覚まし、ぼんやりとした頭で釜トンネルを抜け出る。 「トンネルを抜けると雪だった」ではじまる川端康成の小説があるが、今日はトンネルを抜けると、それはそれは素晴らしい大正池の紅葉(黄葉)であった。大半の乗客は上高地終点まで行くが、我々はここで下車し、終点の上高地まで散策することとした。大正4年(1915)6月の焼岳大噴火のときに流れ出た溶岩により、せき止められた梓川にできた大正池も、年々の堆積で次第に狭くなってきているとのこと、幻想的なこの風景も自然の流れのなかで姿、形を変えつつあるらしい。 大正池から田代池に向かい、湿地帯のなかをのんびり河童橋まで散策する。やがて来る厳しい冬に備え、木々の活動も葉を色付け、新芽を息吹くための準備にすでに入っていることだろうなどと想像しながら河童橋に着く。どこまでも澄みきった水が、静かにしかし力強く流れる梓川と、ところどころ新雪をまぶした気品高い穂高の峰々が実にコントラストよく調和し、この場に居合わす幸せをしみじみと感じさせてくれる。 上高地の秋を満喫し、10時45分岳沢に向け出発する。しばらく梓川の右岸にも付けられている広い散策の道を詰め、10分も歩けば岳沢への登山道入口に差しかかる。ここからは観光地"上高地"ではなく、山屋の領域である。  苔むした山道を一段一段登り高度を上げてゆく。ときおり"こまどり"が自慢の声をはりあげ、"ピ−ン カラカラカラ・・・"と澄んだ鳴き声を聞かせてくれる。樹林帯を抜け、大きな石のゴロゴロする広い沢を横切ると、畳尾根末端に建つ岳沢ヒュッテに到着である。振り返れば、先程歩いた大正池から河童橋を中心とする上高地が、箱庭のように見渡せる。  小屋で今日の泊まりの予約をし1泊2食(米持参無し)¥950円/1人を払う。「よければ個室もありますよ」と言ってくれたがこちらにはそんな贅沢な余裕はないし、山小屋は賑やかなほうがよい。  夏とはちがい、部屋もゆったりくつろげ、快適なスタ−トとなる。

■ 10月10日(日) 晴れたりガスったり

5時30分起床、今回は山小屋泊まりのため、炊事もなく気楽なものである。朝食を済ませ熱いお茶をテルモスにいただき、6時50分小屋を出発する。気温6℃、天候は上空は晴れていそうだがこのあたりはガスがたちこめていて視界はやや不良。セ−タ−を着込んだままスタ−トし、前穂高への急な登りに付けられた重太郎新道に取りつく。しばらく登ったところでガスが切れ、朝日に照らされ紅色に染まった西穂高の稜線がまばゆいくらいにはっきりと、視界に飛び込んでくる。  前穂高への登りは結構急だ。上部の一枚岩に取り付けられた鎖場を通過し、吊り尾根と前穂高岳頂上への分岐点に9時30分に着く。一息入れ前穂高岳へ、ごろごろした大きな岩を白いペンキに導かれコ−スを外さないように登る。  10時15分、前穂高岳頂上。快晴、気温4℃。昭和36年の夏山以来4年ぶりの頂上である。今日の行動予定は穂高岳山荘までであり、時間的にもゆとりがあるため、ここで甘酒を沸かし、カステラの行動食を口に入れる。気温は4℃と低いが温かいものが口に入ると、疲労感も薄らぎ体全体にゆとりが出てくるようだ。 満足感を胸に前穂高岳をあとにし、奥穂高岳へ吊り尾根を進む。ほとんど岳沢側をたどり、14時10分北アルプスの最高峰(3190m)奥穂高岳頂上着。先程までの快晴も束の間、再びガスの中での行動となる。視界はそのため駄目、先程の快晴が嘘のようである。頂上では我々の他には単独行のおじさん一人。この先はすぐ下の穂高山荘までの1ピッチを残すのみであり、ここで温かいコ−ヒをつくることとし、付近の日陰に残っている新雪を集め湯を沸かす。穂高岳頂上で飲む新雪からのコ−ヒの味は格別うまい。おじさんにも一杯サ−ビス! 次第に濃くなるガスのせいか、やや薄暗くなりかけた頂上を15時35分に去り、穂高山荘への急な下降を慎重に下り16時10分、穂高山荘着。  夕食を済ませ部屋でくつろいでいると、若い男性2名のパ−ティが近寄り「明日はどちらえ行かれますか?」と聞かれ、「北穂高岳から涸沢へ」と答えると「あとをついていってもいいですか?じつは今日行きかけたのですが、涸沢岳の下りから先が凍っていて自信がなく引き返してきました。」とのこと、「じゃあ、明日は一緒に行きましょ」ということとなる。様子は判らないがこの時期としては十分考えられることである。おそらく必要であろうと持参してきたピッケル、アイゼンを使うことになりそうだ。

■ 10月11日(月) 快晴

5時30分起床、気温はさすがに低くマイナス3℃。このぶんだと北穂高岳への稜線は、解けずに残った新雪がかなり凍っているかもしれない。  朝食を済ませ、アイゼンはすぐに出せるようにパッキングし6時55分昨夜同行を申し入れてきた2人のパ−ティと共に4人で小屋をでる。ここから北穂高へのコ−スは今回が始めてである。心配していた昨日のガスも晴れ上がり快晴だ。朝の1ピッチはいつもながらしんどい。涸沢岳頂上で一息入れ、ここから彼らは引き返したというこの先の様子をチェックする。ここから北穂高岳までは、国内有数のロッククライミングの本場"滝谷"の上部稜線になり、緊張するところだ。アイゼンは無いほうが良さそうだと判断し出発。涸沢岳からの下りは足元から切れ落ちている。ところどころ氷結した足場の氷をピッケルで割って取り除きながら3点確保の姿勢で慎重に下降してゆく。今回のコ−ス中、最も危険な所でありかなり緊張する。我々の後ろから2人のパ−ティもなんとか付いてきているようだ。途中、反対から来たパ−ティとすれちがうことになり、ル−トを譲るべく一歩右手の岩に体重を移した途端、その岩が滑り出し間一髪飛び移りセ−フ!冷や汗ものだ。ひと抱えもある岩がガラガラガラ・・・バ−ンと音をたてて滝谷のF沢へ落ちてゆく。「落石!」大声でどなり不安な気持で下からの反応を待ったが反応なし。誰か岩登りをしていなかっただろうか、と耳を澄まして反応を待ったが何の反応もなし。 「誰かいますか・・・・!」「・・・・・」幸い登攀者はいなかった模様、ほっとする。落石も危なかったが、間一髪で飛び移った我が身の安全を噛みしめる。一瞬動作が遅れていれば浮き石もろとも滑落し、大変な事になっていたと思おうと冷や汗が出る。登山には大なり小なり常に危険の伴うスポ−ツであることをおおいに実感する。  気を引き締めひきつづき足場の氷をピッケルで丁寧に砕きながら進む。約1時間20分の緊張した下降の末、8時40分最低鞍部に着き、ひとまず悪場を通過したので一息入れる。  最低鞍部からはド−ムの裏側を巻き、滝谷上部の稜線を約1時間も進と北穂高岳頂上に着く。例の男性2人のパ−ティとはここで別れる。「気をつけて・・」  日本最高地点にある山小屋"北穂小屋"の前で、眼下に広がる紅葉の涸沢を眺めながらの大休止。「来てよかった。!・・・」夏山とは一味ちがう静かな雰囲気の穂高の山懐にいることの幸せを深く実感する。  ここからは北穂南稜を下降、途中鎖場などもあるがさほど危険なところはない。涸沢に降りてゆくにしたがって、紅葉の「ナナカマド」、黄葉の「・・・・」、常緑の「這い松」のコントラストが美しい。  涸沢のテント場を過ぎ、屏風の岩峰の裾を大きく巻きながら横尾に下る。川原で大休止の間に"屏風岩"を地図の裏にスケッチ。  横尾からは平坦な広い道となり、17時に今日の宿"村営徳沢ロッジ"に着く。嬉しいことに、ここでは風呂に入ることができた。

■ 10月12日(火) 晴れ

5時50分徳沢ロッジ出発。ほとんど人と出会うこともない静かな道を、明神経由上高地に下る。河童橋から今回歩いた「岳沢〜前穂高〜奥穂高の吊り尾根」を眺め、「また来るときにも笑っておくれ・・・・」と、心のなかで口ずさみながらバスの人となる。

 島々から松本電鉄にて松本に出、12時13分発の急行にて帰神。

 

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