仲間と登った想いでの山々

昭和44年夏山合宿(B隊)南アルプス北岳〜農鳥岳縦走


と き昭和44年8月13日(水)〜8月17日(日)
コ−ス
神戸=身延=広河原〜白峰お池小屋〜北岳〜間の岳〜農鳥岳〜大門沢〜奈良田身延=神戸
メンバー(L)渡辺、菅田、高見、岡村、大畑

行 動 記 録

頭のテッペンを出した富士・北岳頂上より間の岳への登り


農鳥岳への縦走路縦走路


■ 8月13日(水) 晴れ

今年は、山岳部としても初めての南アルプスで合宿をもつことになり、例によって定時後バタバタと出発する。入山コ−スから今までとちがい、東海道線に乗り込む。いつもの "ちくま"のような山屋の姿もほとんどなく、我々山屋はなにか落ち着かない。

■ 8月14日(木) 快晴

富士駅で身延線に乗換となるが、身延線始発までの約3時間は眠ることもできず、何となく中途半端な時間を過ごす。  身延の駅からはバスに乗り継ぎ広河原へ。睡眠不足から、乗り込むや直ぐに睡魔に襲われ、コックリコックリ。揺れが激しくなり目を覚ますと、早川の谷底をくねくねと遡っている。  約2時間半の後広河原に9時50分着。夏山最盛期から2週間ほど遅れての入山となったが、ここは南アルプスの玄関口、大勢の山屋で賑わっている。ここに入るまでは、そんなに多いとは思わなかったが、どうやら甲府を経由して入山してくる関東の山屋が多いようだ。  入山届や、水筒への水の補給を済ませ、体操で身体をほぐした後、10時40分に広河原を出発する。少し野呂川を上流へつめるとすぐに大樺沢出合にかかる北岳登山口の吊り橋にさしかかる。  重量制限があり、一人づつ渡らなければならないために、順番待ちとなり、出鼻をくじかれた思いである。 大樺沢は、その年により雪渓の残り具合の変動が激しいらしいが、今年は少なめのようだ。我々はすぐに大樺沢の谷筋から離れ、樹林帯の斜面に取りつく。ところどころで太い木の根が道をまたいで延びており、ときには木の根にまたがりながら乗り越えてゆく。このあたりは眺望も悪く、風もあたらないところで、すぐに汗が吹き出してくる。途中3度ほど休憩をとり、沢水を横切るところではソ−ダラップで喉を潤しながら、適宜思い思いに行動食でカロリ−、エネルギ−を補給しながら登ってゆく。  やがて、道は山腹を巻くように水平道となり、地図で今日のキャンプ地である白峰お池も近いことを確認する。登りはじめて3時間半、キャンプサイトに14時10分着。  このあたりはあまり広くはないが、台地状になっており、雪解け水を溜めた白峰お池が静かに夏の雲を映し出している。池の近くにテント場と山小屋があり、小屋に設営の届を済ませ1日目のキャンプ地とする。

■ 8月15日(金) 晴れ

3時35分起床、テントの中から覗き見る星空が美しい。が外は寒そうだ。朝食をテントの中で済ませ、外に飛び出す。回りのテント組のパ−ティはどこも出発準備で忙しそうだ。  今日はここから "草すべり"と呼ばれている草付きの急な斜面を、約3時間かけて登ることから始まる。このキャンプサイト辺りが森林限界のため、これから先は陽射しはもろに受けてゆかねばならない。30分ピッチで小休止をとりながら、7時30分に小太郎尾根の稜線に出る。予測では2時間半位の直登としていたが、2時間足らずで登ってきた。みんな若い!  陽射しはきついが気温は低く、冷たい風に体温の奪われ方も大きいらしく、休憩すればすぐに寒くなる。これより、稜線ずたいに登り、1ピッチで北岳肩の小屋に着く。その名のとおり北岳の肩の部分に位置し、頂上もここまで来ればすぐ近くに迫って見える。ここもキャンプ指定地となっており、「水場は東側斜面を15分ほど下ったところにあります。」との立札で表示されていた。  荷の軽い小屋泊まりで、馬力があれば、広河原から一気にここまで登ってくるタフマンもいるらしい。我々のようなテントを担いでの縦走隊にはちょっと無理である。  ここからは、いよいよ頂上へ向けての最後の登りとなり、気合もこもる。提灯のような水玉の夜露を花びらの先にぶら下げた紫の "ふでりんどう"や、白花の "とうやくりんどう"など、初秋を思わせる高山植物が咲く広い尾根道を頂上へ向かう。  8時55分、富士山に次ぐ日本第2位の標高(3192.4m)をもつ北岳頂上に立つ。寒い。おそらく気温は10℃を割っているかもしれない。  頂上からの眺望は素晴らしく、濃い雲海が広がり、鳳凰三山をはじめ、甲斐駒が岳・仙丈岳・塩見岳など周辺の山々は、もくもくとした雲海から行儀良く頭を覗かせて迎えてくれている。  しばし眺望を楽しんだ後、次のピ−クである間の岳目指して進む。主稜はほゞ南北に延びた広い尾根で、踏み跡も多く、視界の悪いときなどは要注意のところだ。  中白峰とのコルに建つ県営の北岳山荘、こんもりしたピ−クの中白峰を次々通過、次の3000m級ピ−クとなる間の岳(3189.3m) に12時40分着。広々とした頂上に立つと、南アルプス特有のおおらかな、ドッシリとした気分になるから不思議である。  頂上から西に延びる尾根は、北方の仙丈岳、南方の塩見岳からの縦走路となっているもので、ここ間の岳で合流する。  ここから、農鳥岳とのコルに下る際は、南方に2本の尾根が接近して派生しており、左(東)の方の尾根を下るのであるが、ここも濃霧のときは注意が必要なポイントとなりそうである。  稜線づたいの縦走とはいえ、起伏も大きく、今日のテント場となる農鳥のコルは、かなり下のほうに見える感じで、地図で確認したところでは、約400mの標高差の下りのようだ。  13時15分、間の岳頂上を後にし、コルへの下りにかかる。晴れたりガスったりする中をぐんぐん下り、14時15分農鳥小屋のあるコルのテント場に着く。ここの水場はやゝ遠く、往復30分の散歩が強いられるが、決して文句は言えない。  夕食の準備中、誰かの「あっ ブロッケンが・・」の声に周囲を見渡すと、西陽が東のガスの中に我々の姿をご光がさした影絵に写す「ブロッケン現象」が発生している。冬山での体験はあるが、夏山での体験は初めてであり、さっそくカメラにパチリ!

■ 8月16日(土) 晴れ

3時55分起床、今朝もまだ暗いうちにテントの中で朝食を済ませ、夜露が乾ききらぬテントをたたみ、5時30分出発する。昨日下った約400mを、今日は再び登ってゆかなければならない。  今回の北岳・間の岳・農鳥岳の白根三山の縦走も、残すはこの農鳥岳への登りのみとなった。こまかな起伏の岩稜も西の斜面を巻きながら進み、7時05分農鳥岳頂上(3025.9m) に着く。先ほど通過した西農鳥岳の方が、この主峰より25mも高いことを地図で発見、意外な事実を知る。  紅茶を沸かし一息入れる。しばし快い疲労感にしたりながら、下界では味わうことの出来ない爽快な雲上の旅の雰囲気を満喫する。  大休止の後、さらに縦走をつづけ大門沢へ下る分岐点に足を進める。分岐点周辺は、広い尾根となっており、ここも濃霧のときは下る方向をしっかり見定めないと厄介な方向に迷い込んでしまいそうな地形である。分岐点からは、這い松のなかに付けられたジグザグの急坂を下るが、  背中のザックの重みと、足の疲れが重なり、膝がガクガクしはじめる。このため時々は立ち止まり、膝の屈伸運動をする者、靴の紐をきつく縛りなおす者、疲れに反比例して次第にみんなの口数も減ってくる。  やがて冷たい水が流れる沢筋を横切るところで喉を潤し、少し元気を取り戻す。今日は既に5時間以上歩いており、この先奈良田まではまだ3時間以上の下りが待っている。  沢の途中にある大門沢小屋に立ち寄り小休止。ぶなの生い茂る森林帯に建つ大門沢の小屋は、稜線の小屋とはまたちがった雰囲気のする山小屋である。暇と金が許すならのんびりこの小屋で泊まってみたいが今回は止むなくパス。  大門沢の右岸をしばらく進み、途中右手より派生してきた小さな尾根を越しながら、下降はつづく。やがて右岸から左岸へ、また左岸から右岸へと吊り橋を数回渡り、最後は左岸から登山口の県道に出る。  やはり疲れた足には平坦な道が歩きよい。約20分県道を歩き奈良田に15時35分に着き今回の登山行動を終了する。

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